小学生の弟が友人たちと遊ぶ空き地。

その近くに建てられているボロアパート「柊荘」の201号室には「しょういちの部屋」があるらしい。


どうやら「いわく」付きの部屋らしく、ずいぶんと誰も住んでいないようだった。


その日、大家はそのアパート付近で遊んでいる弟たちに向け、「近づいてはいけないよ」と警告したそうだ。

だが、その言葉は子供たちにとっては甘美な響きだ。


彼らは早速その部屋の前まで行ってみることにしたらしい。

だが冒険は結局そこまで。大家の言葉も気にかかり、部屋の前であーだこーだと騒いだものの結局中に入ることはなかった。


「で、なんでしょういちの部屋なのよ?」

自宅で話を聞かされていた私は弟に尋ねる。

「だって郵便受けに書いてあったんだもん。」

弟は要領の得ない説明した。


「しょういちくん」の部屋?昔住んでいた子供の名前なのだろうか?

いや郵便受けに下の名前を入れるのはおかしい。


名字がしょういち?聞いたことがない。

私はそれ以上考えるのをやめ、弟も話を続けなかった。


不幸は翌日に起きた。弟の友人Aくんが行方不明になり、さらに数日後「しょういち」の部屋の中で死んでいることが発見されたのだ。

A君はよくむちゃをすると有名な子で、おそらくは弟たちが帰った後に、一人でその部屋に入ったのだろうという話になった。

しかし、なぜ死んだのかは未だにわかっていないらしい。


それからしばらくして、たまたま私はそのアパートの前を通ることになった。

Aくんの件もあり、思わず足を止めてしまう。

「部屋の前まで行くならOKなんだよね?」

弟の話を思い出しながら私は恐る恐るボロアパートの階段を登ってみる。

ギシギシと床が軋む音が聞こえた。


「ここがしょういちの部屋ね。」

特になんてことはない。普通の古い部屋だ。木製の扉、左手には浴室と繋がっているであろう窓。右手には今にも外れそうな銀色の郵便受け。

「確か、この郵便受けに「しょういち」って・・」

私が目線を送った瞬間、


背筋に悪寒が走った。そこに書かれている文字。

今回の事件のある側面を語っている「2文字」を見て、私は身体中から血の気が引いていくのを感じた。


なぜAくんがあんな目にあったのか?

残念ながらそれは分からない。



ただ、それが人間の仕業であれ、人外の仕業であれ、この部屋は間違いなく近づいてはならない場所だったのだ。

そこには「不幸の歴史」を積み重ねてきた証拠が残っていた。




郵便受けには「正T」と書かれているのである。