俺は満員電車が嫌いだった。
ざわめく喧騒。ごみごみとした人。否応なしに詰められる距離。
「歪みの」駅のホーム。
俺はもうこんな世界にうんざりしていた。
さっさと辞めてやる。
「まもなく電車が参ります。」
俺は目をつむり、ホームから身を投げる。
気がつくと俺は電車のホームに座っていた。目の前には真っ黒の列車が止まっている。おかしい先ほど確かに飛び降りたはずだが。
「これは冥界へと続く電車です。」
俺の背後から声が聞こえた。
車掌のような格好だが、顔はなく、首の上が帽子となっている。
「私はトレインマン。現世から冥界への案内人です。」
「そうですか。よかった私は死ぬことができたのですね。冥界でもどこでも連れて行ってください。」
「承知しました。ではどうぞ。電車の中へ。」
中は人がポツリポツリといるだけだ。誰もが顔が青白い。
「彼もまたあなたと同様に本日、死んだ人々です。」
トレインマンがそう説明すると、彼は車両の前の方へと歩いて行った。しばらくすると電車が動き出す。周りの景色が動き出した。
「おぉ。」
私は窓の外を見て思わず声をあげる。まるで銀河鉄道。星々がきらめき、宇宙空間を走っているかのようだ。
「今からしばらくの間、この空間を電車は走ります。」
アナウンスの声が聞こえた。先ほどのトレインマンのものである。
と、突如、電車のスピードが緩み始める。
「申し訳ございません。どうやら新たに乗客が増えるようです。」
トレインマンの声が聞こえた。
「先ほど現世で起きた人身事故で、運悪く電車がひっくり返り、大量の死者が出たようで。」
電車はホームで止まる。
溢れんばかりの人々が電車へと乗ってきた。
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